Life in Bloom

英語赤点組だった私がカナダで永住権を取得(PNP)。Life in Bloom(人生真っ盛り)という意識で生活するカナダ生活と在住歴のある韓国話をお届けします。

ジッパー

スポンサーリンク

 数年前、CEOが差別主義発言をしたとして、ホットなブランドから徐々に衰退していったといわれるアバクロ。今では閑古鳥が鳴いている店舗も少なくないそうだけれど、アバクロはかつて憧れのブランド扱いをされていた。

 

 CEO発言がある前のこと。当時、アバクロで目をつけていたコートがセールで安くなったので購入した。

カナダの冬は(一部を除き)とかく長い。冬物を冬終わりのセールで買っても、十分に元が取れるほど着潰すことができる。

また、微妙に流行りは移りゆくとは言っても、日本ほど早いサイクルではまわらないので、よっぽど流行りを象徴するような作りの物でない限り、一度購入したら数年は着続けることができる。ということで、狙っていた冬物が安くなれば大方買いだ。

 

 早速買ったコートを着て学校へ。この学校というのは、当時通っていた移民者向けの語学学校、通称LINCである。

 教室内はいつも寒かった。これは部屋の空調がカナダ人教師の感覚に合わせられるため。

そんなわけで基本的には部屋の中でもコートが手放せなかったが、ユーモアに溢れる先生が笑わせてくれると、体温が上がり暑さを感じることがあった。 

 その日も先生の話で沢山笑って、暑くなってきたのでコートを脱ごうとした。

しかし、ジッパー(チャック、ファスナー)を下げようとしても、最後10センチ位のところで動きが止まってしまう。なにかにひっかかっているわけではないようなので、先生の話を聞きながらも何度もやり直すが、同じところでやはり動きが止まってしまう。どうしたものか。

仕方ないので、コートを脱ぐことは諦めて授業を受けた。

これだから外国製の服は好かない。それにしても、アバクロくらいの物でも粗悪なジッパーを使うなんて許すまじだわ。

 

 

 休憩時間になると、仲良しのブルガリア人のヴィオレッタが手伝ってくれたが、それでも全くびくともしない頑固なジッパー。

5,6度ジッパーを下げることに挑戦すると、ヴィオレッタは諦めたようで「壊れるといけないからここまでにするね。こういう時は火で炙るといいんだけど、誰かライター持ってないかな?」と言った。

ジッパーが壊れたことがなく、私には他のアイデアがないので、彼女の言葉通りにタバコを吸いそうな人がいないかとキョロキョロ見渡すと、ロシア人の男アレクセイと目が合った。

アレクセイは国ではシステムエンジニアとして働いていたという寡黙な人で、休憩時間もジッと席に座っている印象がある。

 

「あ、アレクセイ、もしかしてライター持ってる?」

「いや。持ってないよ」

 

-- 会話終了 --

 

え (^_^;)

では、なぜこちらを見てくれたのかしら?

しかも、まだこちらを見続けている・・・?

 

寡黙なロシア男子がこちらと目を合わせてくれるという場合、きっと何か思うところがあるのだろうと感じたので、続けて聞いてみた。

 

「ねぇ、ジッパーの直し方しらない?」と聞くと、アレクセイは席を立ちこっちへやってきてくれた。

「保証はできないけど…脱皮してみて」とアレクセイ。

「おおお、アレクセイ!」

説明はないけど、何か案があるのね?

これだから寡黙な男はきらいじゃないのよ。口よりも手を動かすってね。素敵。

 

 Tシャツを脱ぐようにコートをそのまま頭からスポッと脱ぎ、彼の言葉通り脱皮した皮のようなコートを机の上に置く。

アレクセイはすぐに手を動かしはじめてくれた。彼は慣れた手付きで、一つ一つ器用に網目に目を入れ込むという作業をしていく。

右側の突起を隙間に入れたら、そのまま強く押し込んで(?)、次は左、また右、そして左・・・。これを繰り返す。

ヴィオレッタと私が挑戦してもびくともしなかったのに、アレクセイの手にかかると、まるで魔法のようにするするとジッパーが降りていく。

ついに完全にジッパーが下まで降りきった。

 

「おおお、あなたってばすごい!ありがとう!助かったよ。それにしても、なんでできたの?」と聞くと、

「娘の服でよく直すからさ。ロシア製の物は大抵こうなるから、慣れっこなんだよ」と、気恥ずかしそうなアレクセイ。

 

なるほど。娘さんの・・・。

 

続いて、

「ブルガリア製のもよくこうなるから私もやるけど、直すには火がないとね・・」とヴィオレッタ。

「石鹸でも同じことができるよ。でも、石鹸も今はないしねぇ」とコロンビア男子。

素手で直せるのはアレクセイだけのよう。

 それにしても、なぜみんな直し方を知っているのかしら。

気になったので、「なんでみんなそんなことを知ってるの?もしかして常識ってやつ?自分だけが初めて聞いただなんて恥ずかしいよ(><)」と言うと、

 

その場にいたクラスメートらが口々に、

「日本製の物はクオリティーが高いからだよ!」

「知らずにいられるほど、日本のジッパーは性能が良いってことでしょう?」

などと言ってくれた。

優しいクラスメートらの言葉がありがたかった。

 

 これ以降、カナダで購入する服は主にバナナリパブリックと決めている。

トロントやバンクーバーにユニクロや無印良品が次々とできる話などは、私のような微妙な中都市住まいの者には遠い異国でのことのようにしか感じられず、身近な存在でもない。そうなると選択肢は限られてきて、こちらのファストファッションものは数回の洗濯ですぐに生地がダメになってしまうことを考えると、バナナあたりを選ぶのは自然なことだ。

今でもアバクロのデザインは嫌いではないが、アバクロは物議を醸して以来微妙な位置にある。そこをいくと、バナナリパブリックは特別だ。

バナナリパブリックの服は素材や品質が良いのはもちろんのこと、コンサバティブなスタイルでどこへ着ていってもウケが良い。少なくとも悪くはないというところも重要で、ファクトリー店舗では定番モノを割引後の値段で購入できることも嬉しい。

なかでもとりわけ気に入っているのは、ジッパーには大抵「YKK」のものを採用しているということである。