この夏、私はカレーが食べられなくなった。
夏は海に山に川、そしてバーベキューにカレーだと長年思い込んできた。毎年、ザ・夏ってイベントを実行してきたけれど、どうも今年はついにアウトだ。
暑い中、スパイスの効いたカレーを食べることこそが夏の風物詩。
かき氷に風鈴に蚊取り線香みたいなのも風流で素敵だけど、現実的にカラダが欲するものは、パワーチャージができる元気の源。
それがカレー。
こんなにもカレーを愛しているのは、私だけではなく、日本人ならきっとわかってくれるはず。
いや、正確にはもう、私はカレーを「かつて愛していた」。
そう、インド人夫婦が隣室に引っ越してくるまでは。
世界がもし100人の村だったら、
確か「10人弱の人がインド諸国周辺の言語を話す」と書いてあった。
その通りなのだろう。
どこに行っても必ずインド系の人々に出くわす。
でも、まさかうちの真横に引っ越してくるだなんて。
もしかすると、隣人はインド人ではないかもしれない。
スリランカやネパールを始めとする、周辺諸国の人なのかもしれない。
彼らの言語が何なのか正確にはわからない。
しかし、カレーを主として食べる人たちであることは確かだ。
なぜなら、彼らが引っ越してきて以来、
毎朝カレーの臭いで目覚めるから。
はじめの数日は良かった。
カレーが好きなこともあり、刺激的なスパイスの香りに
「本格的でおいしそうだな」なんて思っていた。
だけど、来る日も来る日もカレー。
朝だけでなく、昼も、夜もカレー。
雨の日も、風の日も、カレー。
「夏はカレー♪」どころの騒ぎではない。
ベッドルームの部屋に、だんだんとカレーの匂いが染み付いてきているような気がしてきた。
どうもうちのベッドルームに、薄い壁を隔てて、すぐお隣さんの食卓があるようだ。カレータイムには話し声も聞こえてくる。
一度窓を開けて臭いを逃し再び寝ようとするにも、日本のカレーとは違う、独特の香辛料が混ざった強いスパイス臭にお手上げで、結局、臭いで目覚めた日はそのまま起きることになってしまう。
そんな日々が、すでに2か月続いている。
朝6時前からカレーの匂いがした日にゃあ、もうっ。
朝早いのか、夜更かしなのかはわからないが、それはそれは刺激的でエキセントリックな朝だった。
小鳥のさえずりが死ぬ間際の断末魔の叫びに聞こえた・・というのはドラクエのやりすぎだろう。
他にも、寝ようと思って夜ベッドルームに入ると、またしてもカレーの匂い。
ついに、この臭いに耐えられなくなってしまった。
最近では、朝カレー臭で目覚めるとすぐに気持ち悪くなり、吐き気をもよおすほどだ。
しかし、食は文化であるため、隣人に苦情を伝えるわけにもいかない。
第一、うちは夫が韓国人であり、臭いのきつい食べ物を好むため、うちだって周りに大概迷惑をかけている可能性があるというものだ。
我慢するしかない。
いや、海外で我慢することは、単に損である。
我慢は美徳というのは日本独特の考えで、謙遜すること=単に自信がないと捉えられてしまう外の国では、態度はでかく、図々しく、ちゃっかりと、しぶとく、多少汚く生きていかないといけない。
日本で育ったために、真っ直ぐすぎる心を持った自分は繊細すぎて、命にかかわる修羅場をいくつもくぐり抜けてきたような人々からは、ドン引きされるほど心が弱いようだ。
一度なんかは「君は風が吹いたら死んじゃう」と、難民系の移民に言われたことがある。
いやいや、そんなことはないと思うけど。
・・・ということで、やられっぱなしでいるのではなく、ついに私も立ち上がることにした。
密かに私もリベンジすることにしたんだ。
まぁ、密かにだけど。
お隣さんに贈り物のお返しをしようってね☆
ってことで、韓国料理DEリベンジ作戦だ。
ところで、自分はあまり強い臭いや味のものが得意ではないということで、大抵の韓国料理は苦手だ。
好きな韓国料理と言えば、コグマ(スイートポテト)ピザとパッピンス(かき氷)である。
そんな私だけど、決めたんだ。
やるってばよ。
今日から、ありとあらゆる韓国料理を作ろうと思う。
チゲ鍋、テンジャンチゲ(納豆の味噌汁)に豚キムチ。ごま油たっぷりのおかずの数々。
他にも、思いっきり漢方で煮込むサムゲタン(鶏肉)は、魔女になったつもりで本気で作ろう。
とりあえず、コチュジャンで何かを炒めまくってやる。キムチをもっと発酵させてやる。
好きな人にはたまらない、嫌いな人にもたまらない、独特の臭いのオンパレードである。
とりあえず、今夜はナクチポックン(辛いタコの炒め物)。
相当臭いがキツい。
鼻が曲がりそうだ。辛さで咳き込みながら作り、くしゃみも数回した。
まさに3K。
キツイ、キタナイ、キケン。
(赤い液がそこらじゅうに飛び散るので、キッチンが相当汚れる)
辛くて食べられないので、自分用に中華的な物も作った。
さて、効果はいかに?
窓をピシャリと閉められるだろうか。
臭いで苦情が来るだろうか。
ただ、部屋で耐え忍ぶだろうか。
引っ越すまでの間、出来る限り韓国料理を作り続けてやる。
一方、突然の韓国料理エブリデー宣言に、夫は大喜びだ。
そうか、君は好きだったな、韓国料理が。
ところで、
その前にまず自分が臭いで死にそうなので、
現在、全ての窓という窓を全開にして、
淹れたてのコーヒーを鼻先に近づけて呼吸している。
あぁ、苦しい。
新鮮な空気をオクレ・・・
これはひょっとすると、単なる自爆行為なのかもしれない。
・・・メガンテ!